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司書が選んだ読書感想文におすすめの25冊

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目次

読書感想文が一番書きやすい本は? 

夏休み前になると「助けてくれ~」と言わんばかりに、図書館に駆け込んでくる子供たち。「なんか面白い本ないですか?」「泣ける本ないですか?」「一日で読める本ないですか?」待って、待って。何をそんなに慌てているの?聞けば、読書感想文を書く為に、本を探しに来たと言います。思い起こせば、自分が学生の頃は夏休みの宿題の中で一番、読書感想文が好きでした。なぜなら、読書感想文を書くことを口実に、好きな本を買ってもらえたり、読んだ感想を誰かに伝えられることが嬉しかったからです。

読書感想文が一番書きやすい本って、やはり一番は、そういう、自分自身でワクワクしながら選んだ(買ってもらった)本ではないかと私は思います。

もちろん、携帯小説やラノベは向かない、などの縛りはあります。これらは、作品にもよりけりですが、読書感想文向けとは言えません。(理由は後程説明します)

 

 

普段、本を読む習慣のない人へ

普段、本を全く読まない人にも試練はやってきます。冒頭で言ったような、ギリギリに図書館に駆け込んでくる子たちですよね。自分の中に読みたい本がない人、そもそもどんな本が自分に合うか分からない人たち。そんな人たちに向けて、読書感想文に合う本について、少しお話しておきます。

◆読書感想文を書くことに向いている本の条件

  • 著者が伝えたいことが明確なもの
  • 戦争もの
  • 世界で広く読まれてきた名作
  • 主人公の歳が自分に近い
  • 「生きること」を題材にした小説   など

上に挙げたような点が、一つでも当てはまる本であれば、読書感想文に最適と言えます。また、読書感想文に合わない本というものも一緒に挙げておきます。

◆読書感想文を書くことに向いていない本

  • ページ数が極端に少ない本
  • 携帯小説(主人公の恋愛事だけがダラダラ書いてあるようなもの、文章がおかしい、素人が書いたようなもの)
  • ライトノベル(転生したりゲームの世界に入ったりする類)  など

携帯小説やラノベが好きで好きでどうしても書きたい作品がある!ということなら仕方がありませんが、少女漫画やゲームの延長にあるような作品(※文学的に優れたものもあるかも知れませんが、学校側のイメージです。)を、わざわざ読書感想文を書く為の本として選ぶことはお勧めできません。

では、先ほど挙げた「読書感想文に合う条件」に、当てはまる本を具体的に紹介していきたいと思います。今回は25冊の本を選んでみました。

 

 

読書感想文におすすめの25冊

 

進路について考えながら、生き方の参考になる!

『いつかすべてが君の力になる』梶 裕貴/著 河出書房

数々のアニメ主人公吹き替えを担当してきた、人気声優である著者が、自らの苦悩した下積み時代の経験や仕事に対する思いを綴っています。特に「こうしなさい!」という押しつけがましい感じではなく、なりたいものを探していたり、夢に向かっている14歳へ優しく語りかける一冊です。自分の夢について真剣に向き合って、これからを考えていきたい人は参考になると思います。読書感想文を書くにあたっては、自分の夢や進路と絡めて書くと独自性のあるものになっていいかも知れませんね。

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いろいろ進路とか考えている時期に、梶さんファンじゃない人にも読んでほしい!(生徒さん談)

 

教科書を読むより、ヒトラーの恐ろしさがわかる本!

『ヒトラーと暮らした少年』ジョン・ボイン/著 あすなろ書房

純真無垢であった優しい少年が、どんどんヒトラーに心酔していく様子が何とも恐ろしく、悲しい小説です。

7歳の少年ピエロは、暴力を嫌い、近所のユダヤ人で耳が聞こえない少年と遊ぶことが好きな、とても優しい少年でした。しかし、ある時父親が失踪、その後母親も病気で死んでしまい、父親の妹に引き取られることになり、ピエロの人生は一変します。引き取り先の父親の妹が働く別荘がある、オーバーザルツベルクの山で日々を過ごすことになるのですが、ここであのヒトラーと出会い、可愛がられ、いつしかヒトラーに憧れを抱くようになっていきます。教科書でヒトラーを知るより、身近なこととして捉えられる小説です。読書感想文では、閉鎖された環境故に無知であることの怖さや、ピエロを変えてしまった力がどういったものなのかに注意を置いて、「現代の社会では?」と自分のことに置き換えて考えてみるといいかも知れません。

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分厚い本で、貸し出し延長してもらって読み切った!
この時代の日本に生まれて良かった~と、読んだ後、平和な日常に幸せを感じた。(生徒さん談)

 

人生において、人には分岐点となる瞬間がある!

『本当にあった15の心あたたまる物語』キャサリン・バーンズ/編 東洋経済新報社 

ニューヨークを拠点にした「ザ・モス」は、著名人や一般人が聴衆を前にして自らの体験を物語の一つのように語り聞かせるトークイベントです。本作にはその中から選りすぐりの15の話が収められています。聴衆を惹きつけてやまないトークイベントであるだけに、どの話も自分の弱さや過ちをさらけ出していて、それ故に心打たれます。彼らが語っているのは、自分の人生で一番の出来事、つまり、自分の人生において、分岐点となった部分です。「自分の分岐点はいつだったろう?」、「いつだろう?」と考えながら、「ザ・モス」の聴衆になったつもりで物語を読んでみてください。また、聴衆を魅了する話術とはどんなものであるか、読書感想文で触れてみるのも面白いですね。

同年代の人とは違う生き方を選んだ、少年の物語

『15歳のコーヒー屋さん 発達障害のぼくができることからぼくにしかできないことへ』岩野 響/著 KADOKAWA

アスペルガー症候群と診断を受けた少年が、中学に通えなくなったことをきっかけに自分の生き方と向き合い、家族で出した答えは、「ぼくができること」ではなく、「ぼくにしかできないこと」をすることでした。彼が選んだ道は高校進学ではなく、自ら焙煎したコーヒー豆を販売すること。この本は、この少年のことを誰よりも考えてきた両親の目線でも語られていて、発達障害の子どもが社会でどういう苦労を背負うことになるのか、周りは何がしてあげられるのか、考えを深めることが出来る一冊です。又、自分自身のこれからを一生懸命考えて、それを行動に移すことがいかに大切であるかも気づくことが出来るので、読書感想文の中でも、ぜひ、自分のこれからと真摯な姿勢で向き合って考えてみてください。

主人公と一緒に命の重みについて考えよう

『小説 透明なゆりかご』橘 もも/著(沖田×華/原作) 講談社 

高校三年生の看護師見習いアオイの目(経験)を通して、命についてのこれまで意識してこなかった部分に改めて気づかされます。人の死因第一位は「癌」ではなく、「中絶」であるという事実を知った上でアオイが臨む中絶の現場や、生まれて一度も光を見ることなく業務的に片付けられていく赤ちゃんたち…。一方、感動する出産の現場も沢山描かれています。これらは全て産婦人科という同じ場所で起きることなのですよね。性に興味を持ち始めた10代の若い子はこれを見てどう感じるのでしょうか。出産は命懸けだということ、「中絶」は一人の命を絶つということが本当によく分かる小説です。

読めばきっと、大切な人を抱きしめたくなる

『そして、バトンは渡された』瀬尾 まいこ/著 文藝春秋

主人公は、度重なる離婚再婚により五人の父と母がいる17歳の優子ですが、親がコロコロと変わっても真っ直ぐで明るいその性格は、その全員から大事にされ、愛情をいっぱい注がれているからではないでしょうか。「家族の絆」が必ずしも「血縁」だけを指さないことや、自分にとっての大切な人について考えさせられます。暖かな優しい気持ちになれる作品ですが、特に最後の父親である森宮さんとのやり取りは読んでいて楽しく、自然と笑顔になりますよ。最後まで読んで、読書感想文では、ぜひ、タイトルの「バトン」とは、何を言っているのか、考えてみてください。

離れていても互いを思い合う、少年とキツネの物語

『キツネのパックス 愛をさがして』サラ・ペニーパッカー/著 評論社

戦争によって引き裂かれたキツネのパックスと少年ピーターの物語です。家出をしてパックスを探す旅に出たピーターと、ピーターが絶対に迎えに来てくれると信じているパックス、彼らは離れても常にお互いのことを考えています。再会までいろいろな出来事が起こり、そんな中で二人(一人と一匹)はそれぞれ成長していき、パックスに至っては同じキツネの仲間も出来ました。この物語の面白いところは、キツネの視点と少年の視点で物事がそれぞれ語られている点です。その為、パックスとピーター、両方の思いを読み手は知ることが出来るので、感情移入しやすかったです。戦争や誰かによって引き裂かれるのではなく、成長した自分たちの意思で決断した最後は、涙なしでは読むことが出来ません。

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せいとさんの声

動物好きは、泣いてしまう。(生徒さん談)

 

16歳が語る、あの日の記憶

『16歳の語り部』雁部 那由多(ほか)/著 ポプラ社

東日本大震災当時、小学五年生であった子どもたちが五年経って語る、生々しい悲劇。身近な友だちが次の日には忽然といなくなったことの悲しみや、あの時、手を指し伸ばせなかった自分への後悔等、そこで見てきたものをありありと語っています。思い出すのも辛いはずの出来事を今起こっていることであるかのように語るのは、彼らの持つ生き残ったものの「使命感」のようなものでしょうか。同じ悲劇が繰り返されない為にも、経験したことを一つの記録として後世に伝えていく為に、彼らは語っているのです。読後、とても複雑な気持ちになりました。子どもたちの目線で書かれた避難所の様子や大人たちの行動は、ニュースで見たものよりリアルで、被災した子供たちの心情を知ることが出来るとても価値ある一冊だと思います。

戦争が奪うものの大きさを改めて感じる物語

『だれにも話さなかった祖父のこと』マイケル・モーパーゴ/著 あすなろ書房 

第二次世界大戦中に、顔に大やけどを負って一命を取り留めた祖父と、「おじいちゃんの顔をじっとみてはいけない」と言う母の言葉を信じて祖父の顔を見ようとしなかった孫が心を通わせる物語です。孫である主人公は夏休みに島へ遊びに行き、そこで祖父から淡々と戦争での体験を打ち明けられることになります。それは耳を覆いたくなるほどの、辛く、とても悲しい物語でした。戦争によって奪われるものの大きさを思う、大人向け絵本です。戦争で大事な人を亡くして傷ついて戻ってきても、帰還後の周囲の反応で更に心に深い傷を負う…戦争が人を変え、孤独にする様子がよくわかる一冊です。

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せいとさんの声

絵本で読みやすかった。戦争は終わってからも、悲劇を生み続けているのだと、改めて感じた。(生徒さん談)

 

80年間、語り継がれてきた歴史的名著!

『君たちはどう生きるか』吉野 源三郎/著 マガジンハウス

主人公コペル君とおじさんの対話によって話が進んでいきます。どういう生き方がしたいか考えさせられる哲学書のような本です。コペルくんと一緒になって様々な視点から自分はどう生きるか考えてみてください。なんとこの本が出版されたのは1937年で今から80年も前のことなんですよね。これ程昔の作品が、新装版や漫画版も出て、現代でも読み継がれてきているのは、生き方のヒントがこの本の中に散りばめられているからではないでしょうか。ぜひ、この機会に名作を読んでみましょう。

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せいとさんの声

思った以上に、話が難しかった・・・。漫画版を読んだ後に、もう一度チャレンジしようと思う。(生徒さん談)

 

生きづらさを抱える人たちの優しい物語

『曲がり木たち』小手鞠 るい/著 原書房

事故などで体や心に障害を負った人たちの人生が、小さな公園で交差する連作短編小説です。「人の幸・不幸は、それを見ている人の幸・不幸の反映」とあるように、人は自分の鏡であって、心の中のわだかまり等がそのまま誰かに投影されているのではないか、ふとそんな風に思いました。収録されている5話全て、生きづらさを抱える人たちへの讃歌のように感じられます。読書感想文ではタイトルの「曲がり木」の意味することが何にあたるのか、自分なりの考えをぜひ書いてみてください。

もしも隣に難民が引っ越して来たら、あなたはどうしますか?

『ようこそ、難民!-100万人の難民がやってきたドイツで起きたこと―』今泉 みね子/著 合同出版 

ドイツ在住の著者が、多くの難民を受け入れているドイツで実際に起こったことを見聞きし、物語仕立てにまとめた作品です。とても読みやすいので、現代の「難民問題」について理解することが出来、ドイツが難民をなぜ受け入れるのかがよくわかります。もし、隣の家に難民が引っ越して来たら、様々な問題を前に自分だったらどうするか、自分さえよければいいのか、手を差し伸べられるのか・・・正しい知識や価値観を持つことはとても大切だと感じられる一冊です。

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せいとさんの声

ニュースでよく耳にする難民問題が、少しだけわかった気がする。
物語になっているので、とても読みやすかった。(生徒さん談)

 

少年と老人のかけがえのない夏休みを描いた物語

『夏の庭 the friend』湯本 香樹実/著 新潮社

死んだ人を見たいという好奇心に駆られた少年たちは、町外れに住む老人の観察を始めます。全ては老人の死ぬ瞬間に立ち会うために。ところが老人は少年たちと出会って日に日に元気になっていき、老人も少年たちも共に過ごす時間を心地よく感じ始めます。いつしか少年たちの老人観察は老人との深い交流へと形を変えていき、それはやがて、少年と老人のかけがえのない夏休みとなっていきました。

少年と老人の関係が素敵で、最後は胸が熱くなります。大人になっても夏はやって来るけれど、子ども時代は基調で、いろいろなことが吸収出来る「学び」の夏ですよね。この夏、少年たちが学んだことは、とても大きいものであったのだと思います。

膨大な年月をかけて辞書を作る人たちの「本気」が見える作品

『舟を編む』三浦 しをん/著 光文社

「大渡海」という国語辞典が完成するまでの物語です。

名前の通りいかにも真面目そうで、どこか頼りなさそうな主人公の「馬締さん」を筆頭に、この辞書に携わる人たちは皆一癖も二癖もある個性的な人たちで、読んでいて「ふふふ…」と笑えるところもあったりします。タイトルにある「舟を編む」とは「辞書を作る」という意味がありますが、辞書を作る作業ってとても根気のいるものなのですね。とても長い年月をかけて沢山の人達の思いも乗せて、ようやく一つの辞書が完成するのです。この本を読むと、自分の手元にある国語辞典がきっと愛おしく、宝物に思えてくるのではないでしょうか。

自分の道は自分で切り開く、アニーの強さにぐいぐい惹かれる作品!

『アニー』トーマス・ミーハン/著 あすなろ書房

赤ん坊の時に自分と一緒に孤児院の前に置かれていた「すぐにむかえにまいります」という手紙を信じて、アニーは日々を孤児院で過ごしていました。その手紙の言葉はアニーにとって、辛い時、悲しい時の心の支えでした。そして、待って待って11年間。ついにアニーは自分から両親を探し出すと決心し、孤児院を抜け出します。どんな時でも真っ直ぐで強くて明るいアニーの魅力がいっぱい詰まった作品です。ミュージカルを基にした小説ですが、こちらはミュージカルの脚本家が、ミュージカルでは入りきらなかったエピソードを入れて完全版として出版されています。アニーのようなポジティブな人間になりたいものですね。

正しいことって、「正義」って、何だろう?

『ヒーロー HERO』白岩 玄/著 河出書房新社

「面白いことがあれば、みんなそっちに注目する」という考えから、いじめゼロを目指して、ヒーローバカの男子とひねくれ女子が休み時間ごとに大仏マスクを被ってパフォーマンスショーを始めます。チアダンス部や校長先生をも巻き込んで、学校中の「いじめ」の基となる負の関心を断ち切ろうと奮闘する青春小説です。この物語を通して、「正しいこと」がどういうことか、「正義」について考えるきっかけになればいいですよね。校長先生が放った、「生徒ひとりひとりの居場所があることが学校という社会で一番大切だ」という言葉がいじめを無くす条件の一つのように私は思います。この本を通して、自分が思うところの「正義」や、いじめを無くす条件や方法を考えられるといいですね。

前を向いて生きることの大切さ、人生の希望が見えてくる!

『ワンダー』R.J.パラシオ/著 ほるぷ出版

主人公オーガストは十歳の普通の男の子です。ただし、生まれつき顔に「頭蓋顔面異常」という障害を持っていて、そのせいでいじめの対象になってしまいます。「病気がうつる」と罵ったり、顔をじろじろ見て悲鳴を上げたり、避けられたり、周囲はオーガストにとって冷たいものでした。しかし、家族から愛され、ユーモアと賢さの備わっているオーガストの話は面白くて、やがて、周囲にも変化が訪れます。

この本の良いところは、物語がオーガストだけの視点で進んでいくのではなく、章ごとに語り手が変わるところにあると思います。オーガストを取り巻く子どもたちの気持ちがわかることで、いじめている側の問題(家庭環境など)がよくわかり、彼らの心の成長も見ることが出来ます。希望をもって生きることの大切さを学べる作品です。

爽やかで心が洗われる青春物語!

『くちびるに歌を』中田 永一/著 小学館

中学校合唱部の青春物語です。合唱部の顧問である先生が産休に入ってしまい、一年間の期限付きで代わりにやってきたピアニストの柏木先生は、少し風変わりな美人でした。この新顧問に魅せられて不純な動機で入部する男子たちと、女子部員たちとの間に生まれる溝により、事態はどんどん悪化してしまいます。

一方で柏木先生は部員たちにNコン(NHK全国学校音楽コンクール)の課題曲にちなみ、15年後の自分へ手紙を書くという宿題を課していました…。

少しずつ部が一つにまとまっていく様子が、これぞ青春という感じで爽やかな作品です。大人になって読んでも良いと思えますが、ぜひ、青春真っただ中で読んで何か熱いものを感じてもらいたいです。

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せいとさんの声

アンジェラ・アキの歌が、頭から離れなくなった。
読んでいた時、自分も合唱部メンバーのうちのひとり。(生徒さん談)

 

本当の強さとは何かを考えられる作品!

『風が強く吹いている』三浦 しをん/著 新潮社 

素人10人が箱根駅伝を目指す、こちらも青春ストーリーです。厚みのある本で「読めるかな?」と心配になるかも知れませんが、大丈夫です。心配ご無用です。とても疾走感のあるお話で、駅伝本番の盛り上がりは、一つの少年漫画を見ているようでした。物語前半は主人公を中心に進み、後半は他の登場人物たちの話も入ってきて、それぞれの思いや姿勢に込み上げてくるものがあります。「速くではなく強くなれ。」という、物語にしばしば出てくるメッセージは、この作品全体の一つのテーマなのではないでしょうか。箱根駅伝のシーンは走る情景が浮かんできて、とても爽やかな読後感でした。なにかスポーツをやっている人であれば、この小説の持つワクワク感に共感できるでしょうし、文科系の人でも小説で共にスポーツの感動を味わえるなんて素敵ですね。

全ては一つに繋がっている、時の流れが感じられる美しい物語。

『100年の木の下で』杉本 りえ/著 ポプラ社

樹齢100年の栗の木とお地蔵さんがある農家で育った五人の少女たちの物語です。この物語に大きな山場と言えるものはなく、終始穏やかな雰囲気で田舎の日常が語られていますが、100年という長い年月を一冊に収める中で、「なぜ家の前にお地蔵さんがあるのか?」、「屋根裏にあったブローチにはどんな物語があるのか?」など、話がどんどん昔に遡っていくことで少しずつ明らかになっていきます。読み手側からしてみると、タイムマシーンに乗って時間の旅をしてきたような感覚です。時代が後退していることに気づくまでは頭がこんがらがってしまうかも知れませんが、読んでいるうちに5人の少女たちがそれぞれ別の時代で一生懸命生きていることに気づくと思います。自分という存在のバックグラウンドについて、ふと考えてみたくなる、そんな小説です。

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表紙が綺麗で惹かれた。
時代が変わったりするので、最初は少し読みづらかったけど、話が繋がっていることに気づいてからは楽しく読めました。(生徒さん談)

 

どんな困難にぶつかっても、ひとつひとつ乗り越えていく。

『見えないから見えたもの』竹内 昌彦/著 

※こちらの本はhttps://masahikonohon.stores.jpで購入が可能です。学校図書館に寄贈されている場合もあるので学校司書さんに尋ねてみてください。

こちらは著者である竹内さんが、幼少期から現在に至るまでの自らの体験を綴った手記です。竹内さんは小学二年生の頃に網膜剥離で両目ともに失明をしました。全盲となった自分を見守ってくれた家族や友人への思いや、ひとつひとつ困難を乗り越えてきた波乱の人生について、綴られています。読書感想文では、盲学校の元教頭でもあった著者の言う「見えないから見えたもの」がなんであるのか、ぜひ、考えてみてほしいと思います。

 

 

 

善悪がはっきりしない世の中だから・・・

『こんとんじいちゃんの裏庭』村上 しいこ/著 小学館

ある日、認知症のおじいちゃんが交通事故に巻き込まれて意識不明となり、損害賠償を請求される事態になってしまいます。主人公は中3で反抗期真っただ中、現在不登校を決め込む悠斗という少年。この事態に納得がいかない少年は真実を突き止めるべく立ち上がります。事件を調べるためにあちらこちらへ走り回る中、いろいろな大人と出会い、やがて少年は、世の中は一方的に誰かが正しい世界ではないということを知ることになります。きれいごとだけではない大人の世界が、多感な時期の少年の目にどう映り、やりきれない現実とどう向き合っていくのかが丁寧に描かれている作品です。この本を読むと、視野を広げて物事が見られるようになる為には、先生や親のような限られた大人だけに留まらず、もっと様々な大人と出会って色々な意見に触れることが大切なのだと気づかされます。教科書や学校の授業だけでは得られないことって沢山ありますよね。

あなたは、どんな親になりたいですか?

『笑顔でいたい 子どもは親を選べない』川浪 唯/著 文芸者

子を持つ親として、読んでいて気持ちがズンと重くなる小説です。正直、涙なしでは読めません。

真由子という少女が幼少時代から社会人になるまでの出来事を、ただつらつらと書き綴っている小説ですが、そのエピソード一つ一つがあまりにも苦しく、重く、「子どもは親の所有物ではないぞっ!」と読みながら何度も心の中で叫びました。この作品の大きなテーマは作者があとがきに二、三行で書いた、「子どもは親の持ちものではない。子どもには子どもの人生がある」ということであり、作者からの「子どもの心を大切に受け止めてほしい」というメッセージがひしひしと伝わってきます。小さな子どもが「自分は望まれて産まれてきたのか…」と悩んでいるなんて、読んでいて本当に胸が痛いです。真由子にはお兄ちゃんがいて、それが幼い頃の真由子にとっては唯一の希望でした。幸せになろうと兄妹で近い合う、その姿に、あなたは何を思いますか?ぜひ、読書感想文に思いのたけをぶつけてください。

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生い立ちが過酷過ぎて、読んでいて辛かった。(生徒さん談)

 

アメリカの純文学を読んでみよう。

『老人と海』ヘミングウェイ/著 新潮社 

老人と大魚との84日間の海での死闘を描いたアメリカの純文学です。この物語は(老人に寄り添う)少年と、老人の関係も温かくていいですし、何と言っても、広い海で大魚を吊り上げようと静かに孤独な闘いを繰り広げる老人サンチャゴの”強さ”に魅かれる作品です。サンチャゴがこれまでどういう人生を歩んできたのか、多くを語らない物語だけに想像が膨らんでしまいます。例え過去に捕らわれたとしても、先の見えない未来が怖いと感じたとしても、サンチャゴのように、今、この時を懸命に生きることが大事だとこの物語は教えてくれます。老いや性別等を理由に諦めるのではなく、今生きているこの時を大事にしていきたいですね。

不登校の少女と西の魔女(祖母)の物語

『西の魔女が死んだ』梨木 香歩/著 新潮社

中学を不登校になってしまった女の子が、「魔女」こと、祖母の元でひと月あまりを過ごす様子が暖かく描かれた物語です。自分が魔女の家系だと知って祖母から魔女修行を受けることになりますが、祖母からの教えは、自然と共存する、規則正しい生活を送る等、全て丁寧に日々を過ごすことと繋がっていました。季節は初夏・・・読書感想文を書く少し前から読み始めると時期的にも調度良くて、涼しい木陰や、外の空気に触れられるデッキ等に出て、どっぷり物語の世界に浸かって読んで頂きたい作品です。日々の喧騒から離れて、ぜひ、穏やかな気持ちで読書をしてください。

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タイトルからファンタジーかと思っていたので、最初はがっかりしたけど、諦めずに読んだらいい話だった。(生徒さん談)

 


さて、いかがだったでしょうか?

戦争物、青春物、語り継がれる名作・・・なるべく色々な角度から本を集めてみたつもりですが、この中に手に取ってみたいと思える本はありましたか?読書は心の安らぎです。あなたが「出会えた」と思える本と、巡り合えますように・・・。

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